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お知らせ

赤毛米酒”久蔵翁”の販売中断について

お知らせ

2021.06.24

当会が平成29年より3年間行ってきた、赤毛米酒”久蔵翁”の販売を一時中断いたします。
中断するに至った経緯、赤毛米酒に関する取組については下記のとおりです。
赤毛米酒 純米吟醸原酒”久蔵翁”の詳細はこちらから

赤毛米(赤毛種)とは

明治時代初期、寒地・北海道での米づくりは不可能とされていましたが、中山久蔵翁が島松沢(現在の北広島市島松)に入植し、「赤毛種」とよばれる寒さに強い稲を改良しながら、水温を一定に保つため昼夜を問わず管理し、多くの苦労を重ね、1873年(明治6年)稲作に成功しました。
その後、中山久蔵翁は稲作を始める開拓者に種もみを無償で配布し、全道各地に米づくりが広がりました。
北海道初の優良品種米となった赤毛種は、品種改良が重ねられ、新しい品種が多く誕生し、現在北海道を代表する「ゆめぴりか」「ななつぼし」は、赤毛種の子孫です。
私たちは、現在は流通しないこの赤毛種を、生産者の協力のもとに栽培し、様々な加工品が誕生しています。


赤毛米酒”久蔵翁”の誕生

赤毛米

この赤毛米100%で日本酒の製造企画に取組んだのが平成28年のこと。
「赤毛」種は、稲穂に長いノギ(ノゲ)があるのが特徴で、収穫期になると名前のとおりに長い毛が赤く色づきます。
出穂したばかりのノギは白く輝き、収穫期には赤く色づき、どちらも「赤毛」種にしかない美しさです。

しかし、収穫作業はそのノギが原因で機械化がうまく出来ず、ほとんどが手作業での収穫となり、大変手間がかかるのです。


赤毛米の乾燥作業

(乾燥機での乾燥が出来ないため、手作業での乾燥)
収穫時以外でも、赤毛は通常の米とは違い、背丈が高くなりやすく、成長を調整しなければならないなど、生産者泣かせの品種です。それまでは少量の生産でありましたが、誰も見たことのない、誰も取り組んだことのない赤毛米100%の日本酒を見てみたいという熱い思いと生産者の努力が実り、日本酒を仕込める量を生産できるまでになり、平成29年に赤毛米100%の純米吟醸原酒”久蔵翁”が誕生しました。
これは、生産面・製造面においても多くの課題をクリアしながらの取組で、奇跡ともいえることでした。


北海道米の原点”赤毛種”で造った奇跡の日本酒 純米吟醸原酒”久蔵翁”(きゅうぞうおう)販売開始

久蔵翁

平成29年6月、幾多の課題を乗り越えて誕生した久蔵翁は、取組みに携わって頂いた関係者立会いのもと、お披露目会を開催し、北広島市内限定で商工会員の酒類取扱店に並びました。

(久蔵翁は多くの市民が携わり、題字は地元の北広島高校の書道部生徒の作品です) 


北海道ソムリエ&SSI認定酒匠 鎌田孝氏からは、飯米でありながら道産酒造好適米の彗星を思わせる特徴にとてもよく似ていると評価を得て、6月下旬に販売を開始し、8月上旬には完売するほどの好評を得ました。
それから3年間、6月下旬から販売をし、毎年2~3か月で完売するほどでした。

久蔵翁リリースから4年目の出来事

久蔵翁販売から4年目となった令和2年5月。
久蔵翁は仕込み(製造)の過程で、日本酒にはなったものの、これまでの久蔵翁の品質に至らず、6月下旬販売を断念しました。

販売断念となった要因の調査

要因は、日本酒を仕込む際に米が硬く(食して硬いとは違い、米が融解しないこと)融けなかったことによります。
この要因を聞くと、一番最初に思い浮かぶことは、醸造工程が失敗だったのではないか、ということでしょう。しかし、これはまったく違いました。(内容は後に記載します)
そうでなければ、米作りの際に何か問題があったのではないか。
近年、道外では高温障害により酒米が硬くなり、同様に米が融けなくなる例が多くなっているとのことで、同様の要因が想定されました。しかし、北海道においては、近年いくら気温が高くなったとは言え、高温障害に該当することは無いという専門家の見解を受け、この要因にも該当しませんでした。
それではどうして4年目にして米が急に硬くなったのか? 硬いと言ってもどの程度硬いのか。
米の硬さを数値で表現するのには、いくつかの数値がありますが、ここでは一番わかりやすいと思われる米の糊化温度で説明します。
糊化のピーク温度は、国産(道外)の酒米では、概ね63~70℃の範囲で、高くても73℃くらいまで(猛暑年での現象)。
北海道産酒米の糊化温度は、62~67℃の範囲で、70℃を超えることはなく、道外と比較すると明らかに低い温度となります。
糊化の温度で1~2℃の差は大きな差となります。
インディカ米は非常に硬く、日本酒を仕込むのは困難と言われております。
図1表からも容易にわかるように、赤毛は日本酒が出来る可能性がない米と言えます。


グラフ

(糊化温度の分析・情報提供:独立行政法人酒類総合研究所)

すると、更に疑問が湧いてきます。販売できていた3年間はどの様になっていたのか?
毎年毎年、米のサンプルを保存するような処理はしていないため、その調査は不可能と思いましたが、ここにも奇跡がありました。
平成28年産の赤毛米(平成29年にリリースした際の原料米)を保管していたスタッフがいたのです。
調査した結果は、図2表の通りとなりました。

グラフ2

(糊化温度の分析・図の提供:独立行政法人酒類総合研究所)

更に疑問が湧いてきます。
4年目にして、種が突然変異をしたのではないか?
というのも赤毛種は、そもそも自然栽培においても変異が生じやすい種であることが、過去の文献でも明らかになっています。
このことは当初から認識はしていたものの、ここまで変異するものなのか。
しかし、更に事態は変わります。
北広島市には、種の保存を目的に活動している北広島市水稲赤毛種保存会という組織がありますが、当会委託先の生産者も同保存会のメンバーです。
同保存会は、平成22年に道総研中央農業試験場に遺伝資源として保管されている赤毛種のひとつを入手し、厳密に種の保存と増殖を行ってきました。
遺伝資源種子として入手できる種子の量は少量となるため、入手してから数年は毎年栽培して増殖していく必要があります。
当会が平成29年から3年間販売した赤毛米酒”久蔵翁”の原料となった赤毛米は、平成22年に保存会が入手し、増殖したものです。また、同保存会では、5年に一度のサイクルで種子の更新を考えており、平成28年にも種子申請を行っています。当会委託生産者が平成31年(令和元年)に栽培した種子は、これを増殖した種子でありました。
お気づきになられたでしょうか?
久蔵翁が出来ていた3年間(平成28年栽培~平成30年栽培)と、平成31年(令和元年)の栽培は、種子の由来が異なります。
異なると言っても、赤毛種でないということではありません。
同じ品種でそんなことがあるのかどうか、種子の提供先に半信半疑で問い合わせると、平成22年入手種子と平成28年入手種子とでは、種子の管理番号が違っていました。
管理番号は、元々の栽培地等の由来が異なるごとに厳密に区別されているそうです。
「赤毛」が品種の頃(1900年代前半)には、品種の概念が現在ほど厳格ではなく、品種といえども遺伝的に多様な集団であり、それが由来の異なる種子として世代を繰り返し、増殖されることで品質まで異なる特性を有することとなった可能性があります。
「赤毛」という名前は同じでも、異なる地域で異なる農家が繰り返し栽培していく中で、特徴が異なってきたのかもしれません。
このようなことが重なって、赤毛米酒”久蔵翁”ができる米と、できない米に分かれたのではないかと考えられます。

これからの久蔵翁

今回調査した内容から、生産や製造の過程に問題があった訳ではないことがわかりました。
おそらくこれまで誰も取り組んだことのない、赤毛米による日本酒づくり。酒の製造過程での問題や栽培方法・高温障害の問題でもなく、種子そのものの変異体質から、この様なことが起こることを予想できなかったことが唯一の原因であるとしたら、それを誰が予想できたでしょうか。
また、平成29年に初めてチャレンジした時に、今回の事案と種子管理番号が逆であったなら、この世に赤毛米酒”久蔵翁”は誕生していません。
ここまで奇跡が度重なることなどあるのか、と思いながら、当会では現在、久蔵翁が出来ていた平成28年産(平成22年入手種子)と同じ遺伝資源種子を入手し、種子増殖に取り掛かっています。
しかし、現在最有力な原因と考えられる管理番号が原因であることが確実となるのは、今年増殖した種子の収穫後に改めて調査した後となること。また、その種子が今後も絶対変異しない、とも言えません。
酒を仕込むまでに増殖するには最短でも3年を要しますが、これまで幾多の奇跡が重なって実現した久蔵翁プロジェクトであるため、必ず奇跡は起こる。そう信じて、4年後の再リリースに向けて全力を注ぎたいと思います。
しばらくの間”久蔵翁”の販売が出来なくなることをお詫びいたしますとともに、販売再開の際には、これまで同様にご愛顧いただきますよう、よろしくお願いいたします。
また、当会では新たな商品のリリースも検討中であります。